労務Q&A

2008年12月号

労働時間
株式会社コンサルティング・オフィス
中小企業診断士 神田幸男
   

 今月号と来月号の「労務何でもQ&A」のテーマは「労働時間」です。  従業員が会社内で実際に勤務している時間が「労働時間」であることは、労使ともに認識していると思われます。しかし、労働時間に該当するのは、会社内で実際に作業を行っている時間だけではありません。例えば、「社員研修の時間」、「出張時の休日の移動時間」、「作業着への更衣時間」などが労働時間にあたるかどうかについて回答、解説をいたします。

 

Q1 「「当社では、所定労働時間終了後に有志の勉強会や研修が行われております。これらの時間は労働時間にあたりますか?」

A1 使用者が労働者に対して行う教育・訓練・研修については、使用者の明示の命令により参加が強制されている場合はもとより、明示の命令がなくても、参加しないと不利益な取り扱いを受けるなど実質的に参加が強制されている場合には、教育・訓練・研修に要した時間は労働時間として取り扱わなければなりません。

 行政解釈でも、就業時間外の教育訓練について、「労働者が使用者の実施する教育に参加することについて、就業規則上の制裁等の不利益取り扱いによる出席の強制がなく自由参加のものであれば、時間外労働にならない」としています。

 したがって、使用者の明示の命令がなく、名目上は、社員の有志による勉強会であっても、@参加しない場合には、賞与の査定や昇格において不利益となる場合、A業務との関連性が著しく高く、参加しないと業務に支障をきたす場合―などは、実質的に参加が強制されているとみることができ、たとえ、有志の勉強会という名目であっても、労働時間として取り扱うことになります。

 

Q2 「当社工場の従業員が自発的に行っている品質改善活動(QCサークル活動)は労働時間にあたりますか?なお、品質改善活動は通常業務が終了した後か休日の土曜日に出勤して実施しているようです。」

A2 いわゆるQCサークル活動などについても、名目上は自主的というものであっても、参加しない場合に不利益な取り扱いを受けるなど実質的に参加が強制されている場合には、参加に要した時間は労働時間として取り扱わなければなりません。

したがって、このような強制参加のQCサークル活動を所定時間外に行う場合には、別途賃金の支払いが必要になります。

 QCサークル活動をめぐる判例では、QCサークル活動時間の賃金の支払いが争われた事案ではありませんが、QCサークル活動に参加していた自動車製造メーカーの男性の致死性不整脈による死亡について、QCサークル活動などに係わる作業は、労災保険の業務上認定の業務起因性の判断においては、使用者の支配下における業務と判断するのが相当であるとした上で、男性の死亡を業務上災害と判断したものがあります。

 判決は、男性が参加していた小集団活動(創意工夫提案活動、QCサークル活動など)について、@小集団活動への参加状況が人事考課の考課要素とされていた、A活動の内容が業務に反映されることがあり、賞与や研修助成金が支払われたり、一部の時間の残業代が支払われていた、B本件活動が、事業主の事業活動に直接役立つ性質のものである―などから、労災保険の業務上認定の業務起因性の判断においては、使用者の支配下における業務であると判断しています。

 

Q3 「当社の営業担当は、定期的に仙台への出張があります。その際、休日に出張先へ移動する場合は、休日労働として取り扱わなければなりませんか?」

A3 出張の際には、休日に出張先へ向けて出発する場合も少なくありません。

 休日の旅行時間が労働時間に該当するか否かについては、これを通勤時間と同じ性質のものであり、労働時間でないとする説と、旅行時間とはいえ、使用者の一定の拘束の下にある時間であるから労働時間であるとする説に分かれています。

 この点については、行政解釈は、「出張中の休日はその日に旅行する等の場合であっても、旅行中における物品の監視等別段の指示がある場合の外は休日労働として取り扱わなくても差し支えない」としています。

 ただし、この行政解釈は、出張中の休日の旅行時間を休日労働として取り扱わなくてもよいといっているのであって、旅行時間が労働時間に該当せず、その時間に対する賃金などの支払いがまったく必要ないと解釈したものではありません。

 一般に、労働者が休日に出張先へ移動するのは、休日に移動しなければ出張先で通常に業務を行うことができないことから、やむを得ず休日に移動しているなど、業務上の理由によるものと考えることができます。

 この場合、休日に移動することは、明示の命令がない場合も、黙示の業務命令によるものと判断することができます。したがって、休日の旅行時間について、何の賃金も支払わないというわけにはいきません。

 この場合の賃金については、旅行は通常の労働とはまったく性質の異なるものですから、必ずしも通常の労働に対する賃金と同額の賃金を支払う義務はないと考えられます。

 例えば、出張規定などにより、休日の旅行時間については賃金額に応じた日当などを支払うこととし、通常の労働に対する賃金とは異なる賃金を支払うことを明確にしておくのがよいでしょう。

 この点について判例では、海外出張時の時間外手当の支給対象となる実労働時間の算定にあたり、@所定労働時間内の移動は移動時間も含めて所定労働時間の勤務とみなし、仮に移動時間を除く実労働時間に満たなくても所定内賃金は減額しないこと、A所定労働時間外及び休日の移動時間は、時間外(休日)手当の支給対象となる実労働時間に含めないこと―などを労働協約で協定し、かつ、一旅行日当り2000円の海外出張手当が支給されていたケースについて、海外出張時の移動時間は時間外手当の支給対象となる実勤務時間には当たらないとしたものがあります。

 

Q4 「当社の製本オペレーターは、工場で作業する前に作業服に着替えます。この着替えに要した時間は労働時間として取り扱わなければならないのでしょうか?」

A4 作業服への更衣、安全靴などの着用に要した時間が労働時間に該当するか否かについては、原則として、@作業服などの着用を義務付けている、A事業場内の更衣室などで着用することを義務付けている―場合は、労働時間として取り扱う必要があります。

 この点について判例では、三菱重工業長崎造船所事件で、最高裁は、前述の判断基準を示した上で、「労働者が、就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内において行うことを使用者から義務付けられ、またはこれらを余儀なくされたときは、当該行為を所定労働時間外において行うものとされている場合であっても、当該行為は、特段の事情がない限り、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができ、労働基準法上の労働時間に該当する。」との判断を示しています。

 この判断に基づき、本ケースについて、@会社の指示により作業服及び保護具などの装着が義務付けられていたこと、A装着を事業所内の所定の更衣室などで行うこととされていたこと、B装着を行わないと場合によっては就業規則に定められた懲戒処分や就業拒否を受け、賃金の減収につながること―などから、作業服への更衣時間を労働時間と判断しています。

 このように、作業服などへの更衣が労働時間に該当するかどうかは、就業規則などの定めにより決められるのではなく、@作業服の着用を義務づけている、A事業場内での着用を義務づけている―などの事情がある場合には、労働者が使用者の指揮命令下に置かれていると判断されることになるわけです。

 

Q5 「「当社では毎朝、朝礼を行い、その後、準備体操を行っています。この朝礼や準備体操に要する時間は労働時間に該当しますか?」

A5 始業前に朝礼や準備体操を行う事業場も少なくありません。

 始業前などに行われる朝礼や準備体操などについては、それらが就業規則の規定や口頭の命令など、使用者の明示の命令によって義務付けられている場合は労働時間として取り扱わなければなりません。

 また、明示の命令などがなくても参加しなかった場合は不就労として賃金が減額されるなど、何らかの不利益な扱いを受ける場合や業務に支障をきたす場合は、黙示の業務命令により実質的に参加が義務付けられているとみなされます。

 具体的には、始業前の朝礼については、当日の業務の具体的な指示などが行われるのが一般的ですから、このような場合には、労働者は、始業前の朝礼に参加しなければ当日の業務に支障をきたすことになり、実質的に参加が強制されているとみることができます。

 準備体操については、特に建設業や製造業などにおいては、労働災害防止の観点から会社が労働者に参加を義務付けていることが多く、このような場合には、労働時間として取り扱わなければなりません。

 一方、例えば、準備体操などについて、使用者の命令がなく、労働者が真に自主的に行い、参加しなくてもまったく不利益などがない場合は、労働時間として取り扱う必要はありません。