労務Q&A

2009年1月号

労働時間
株式会社コンサルティング・オフィス
中小企業診断士 神田幸男
   

 今月号の「労務何でもQ&A」のテーマは前月号に引き続き「労働時間」です。  従業員が会社内で実際に勤務している時間が「労働時間」であることは、労使ともに認識していると思われます。しかし、労働時間に該当するのは、会社内で実際に作業を行っている時間だけではありません。例えば、「社員研修の時間」、「出張時の休日の移動時間」、「作業着への更衣時間」などが労働時間にあたるかどうかについて回答、解説をいたします。


Q6 「当社では、総務部の従業員が交替で昼休み(就業規則で休憩時間の規定あり)の電話当番や来客の応対を行っていますが、これらの時間は労働時間に当たりますか?」

A6 休憩時間については、@労働時間の途中に与えること、A原則として、事業場の全労働者に一斉に与えること、B労働者に自由に利用させること――の3原則が定められています。
 休憩時間とは、単に作業に従事しない手持ち時間を含まず、労働者が権利として完全に労働から離れることを保障されている時間をいいます。そして、その他の拘束時間は労働時間として取り扱わなければなりません。
 つまり、作業に従事していない時間であっても、完全に労働から離れることが保障されていなければ、労働時間として取り扱わなければならないことになります。
 休憩時間における来客当番については、行政解釈において、「休憩時間に来客当番として待機させていれば、それは労働時間である」とされています。
 したがって、たとえ昼休みに来客あるいは電話がまったくなかったとしても、労働から離れることが保障されていませんので、その時間は労働時間として取り扱わなければなりません。
 この場合、昼休みの来客当番を行うには、一斉休憩付与の適用が除外されている事業以外の事業場については、労使協定を締結し、交替で休憩時間をとらせる方法としなければなりません。


Q7 「得意先との休日の接待ゴルフや社員の親睦を深めるための社員旅行も労働時間として取り扱うことになるのでしょうか?」

A7 営業社員が、得意先や顧客などを接待して、飲食やゴルフなどをすることは多々あります。
 こうした接待が所定労働時間内に行われる場合問題はありませんが、通常、接待による飲食は所定労働時間外である夜間に、接待ゴルフは休日に行われることが多いでしょう。
 これらの接待についても、使用者の業務命令により業務上の必要性から行われている場合は、労働時間として取り扱わなければなりません。
 それでは、明示の業務命令がない場合はどうなるのでしょうか。
 得意先や仕入先などと、個人的な友人関係からゴルフや飲食にいく場合は、労働時間には当たりません。
 こうした明確な業務命令がない場合の接待については、接待した得意先の過去における取引実績や将来の取引の見込み、その会社における接待の取り扱い及び慣行(許可制としているか労働者の裁量に委ねているかなど)などを勘案して、黙示の業務命令があったか否かが判断され、労働時間として取り扱うべきか否かが決まることになります。
 社員旅行については、Q1の教育・訓練・研修などと同様、明示の命令がなくても、参加しないと不利益な取り扱いを受けるなど実質的に参加が強制されている場合には、労働時間として取り扱わなければなりません。
 したがって、休日に社員旅行を実施する場合、自由参加であり、社員旅行に参加しない労働者に不利益な取り扱いをしないのであれば、別途、賃金の支払いは必要ありません。
 しかし、社員旅行への参加が強制されている場合には、割増賃金などの支払いが必要となります。


Q8 「当社の経理部員は、決算時期になると書類等を自宅に持ち帰り仕事を行っております。この持ち帰りの仕事は残業時間にあたりますか?」

A8 原則として、労働者は、労働契約上、使用者の指揮命令の下で労働する義務を負っているのであり、自宅など私生活上の場で労働する義務はありません。
 にもかかわらず、自宅に仕事を持ち帰って処理するということは、自宅に持ち帰って処理しなければ決められた期日までに業務を完了することができなくなるなど、業務上の必要性からやむを得ない措置と考えることができます。
 このような場合には、使用者が業務命令を発して自宅に仕事を持ち帰って処理するよう命じた場合はもちろんのこと、明示の命令がなくても、黙示の業務命令が出ているとみなされることになるでしょう。したがって、労働者が仕事を自宅に持ち帰って処理した場合には、特別な事情がない限り、労働時間として取り扱わなければならないといえます。
 このような持ち帰り残業を労働時間として取り扱わなくてよいケースとしては、会社が労働者の持ち帰り残業を厳密に禁止しているケースが考えられます。
 つまり、@会社が持ち帰り業務を明確に禁止し、これを徹底する体制を整え実施していること、A会社が各人の業務の進捗状況を把握すること、B長時間の残業や持ち帰り残業を行わなければ業務が完了しない場合は、その旨を上司に報告することを義務づける、C報告があった場合には、その都度、上司が他の者に業務を振り分け調整を行う――などの措置をすべてとることが考えられます。
 このような措置をとっているにもかかわらず、報告を行わず、独断で自宅で業務を行った場合は、労働時間に該当しないと考えられます。


Q9 「当社では、残業する必要性が生じた場合は、事前に所属長の許可を得てから残業することと就業規則に規定してあります。しかし、製造部門の社員が所定の残業許可の手続きをとらずに残業しました。この残業時間も労働時間にあたりますか?」

A9 労働者が時間外労働を行った場合に、会社が時間外労働の業務命令をしなかったからといって、割増賃金を支払わないことは原則として許されません。
 それでは、労働者の残業を許可制としている場合で、所定の手続きを取らずに残業した場合は、どうなるのでしょうか。
 この場合も、会社が残業の許可制度を厳密に運用していたかどうかがポイントになります。
 例えば、労働者を指揮監督する上司などが、許可手続きを経ない残業の事実を知りながら、特に残業などを中止させる措置を取らず、黙認していた場合には、使用者の黙示の業務命令があったものとみることができます。したがって、労働時間として取り扱わなければなりません。
 行政解釈でも、黙示の指示による労働時間について、「使用者の具体的に支持した仕事が、客観的にみて正規の勤務時間内ではなされ得ないと認められる場合の如く、超過勤務の黙示の指示によって法定労働時間を超えて勤務した場合には、時間外労働となる」としています。
 このような場合に、時間外の勤務を労働時間として取り扱わず、割増賃金を支払わなかった場合には、割増賃金不払いとして労働基準法違反となります。
 残業許可制に関する事案ではありませんが、判例では、会社の残業禁止命令に反して残業を行ったケースで、命令に反して行われた残業時間に対する会社の割増賃金支払い義務がないとされたものがあります。
 この事件は、過半数労働組合との時間外・休日労働協定(三六協定)締結に係わる交渉がまとまらないことから、協定が締結されるまでの間、会社が従業員に残業禁止を命ずるとともに、残業が必要な場合は、役職者に業務を引き継ぐよう命じていた中で、従業員が残業を行った場合の割増賃金の支払い義務の有無が争われたものです。
 この事件で、東京高裁は、@会社が繰り返し協定が締結されるまで残業を禁止する旨の業務命令を発していたこと、A残務がある場合には役職者に引き継ぐことを命じ、この命令を徹底していたこと、B協定が未締結である以上、時間外労働をさせないことは使用者の法的義務であり、残業禁止の業務命令自体について違法の評価を受けることはあり得ないこと――などから、残業禁止命令に反して行った残業時間は、使用者の指揮命令下にある労働時間と評価することはできないと判断しています。


Q10 「毎年、定期的に行っている健康診断の受診に要した時間は労働時間に算入しなければなりませんか?」

A10 健康診断に要した時間を労働時間として取り扱うべきか否かについて、行政解釈では、一般労働者を対象とする一般健康診断と、特定の有害業務に従事する労働者を対象に実施が義務づけられている特殊健康診断の2つに分けて、それぞれ解釈を示しています。
 まず、一般健康診断については、「一般的な健康の確保を図ることを目的として事業者にその実施義務を課したものであり、業務遂行との関連において行われるものではないので、その受診のために要した時間については、事業者の負担すべきものではなく労使が協議して定めるべきものであるが労働者の健康の確保は、事業の円滑な運営の不可欠な条件であることを考えると、その受診に要した時間の賃金を事業者が支払うことが望ましい」とされています。
 一方、特殊健康診断については、「事業の遂行にからんで行われる当然実施されなければならないものであり、それは所定労働時間内に行われるのを原則とすること。また、特殊健康診断の実施に要する時間は労働時間と解されるので、当然健康診断が時間外に行われた場合には、当然割増賃金を支払わなければならないものであること」とされています。