労務Q&A

平成21年3月号

改正労働法
株式会社コンサルティング・オフィス
中小企業診断士 神田幸男
   

 長時間労働を抑制し、労働者の健康や、仕事と生活の調和を図ることを目的とする「労働基準法の一部を改正する法律」(平成20年法律第89号)が、平成20年12月12日に公布され、平成22年4月1日から施行されます。 そこで今月号の「労務何でもQ&A」では、この改正労基法についてそのポイントを解説いたします。


Q1 「労働基準法が昨年12月に改正されたと聞きましたが、改正労基法成立の背景や成立に至るまでの経緯について、その概要を説明してください。」

A1 改正労働基準法が成立した背景や成立に至るまでの経緯の概要は次のようになります。

1、労基法改正案の国会上程経緯

   平成19年通常国会に3月13日付で提出され、その後の同年臨時国会、平成20年通常国会、同年臨時国会まで継続審議が続き、事実上たな晒し状態にあった労働基準法改正案が実に約1年8ヶ月の歳月を要し、ようやくにして与野党の修正合意が成立し、同月12日に公布され、平成22年4月1日施行が同法附則1条に明記されています。

   国会に労基法改正案が提出されるまでには、大きな変遷がありました。

   同法改正案については、平成18年1月27日に示された厚労省の「今後の労働時間制度に関する研究会報告書」の「仕事と生活のバランスを実現するための『働き方の見直し』の観点から、長時間労働を抑制しながら働き方の多様化に対応するため、労働時間制度について整備を行うことが必要である」などの提言を踏まえた、厚労省労政審議会労働条件分科会での困難を極めた審議の末、平成18年12月27日の分科会最終報告やその後の平成19年2月2日付の分科会から厚生労働大臣宛に答申された厚労省労働基準法改正案要綱などと比較すると大幅な修正がなされました。

 2、労基法改正案の提案理由

    以上の審議の中で、改正項目が圧縮され、そのため、提案理由も次のような簡潔なものとなりました。

    すなわち、「長時間にわたり労働する労働者の割合が高い水準で推移していることなどに対応し、労働以外の生活のための時間を確保しながら働くことができるようにするため、一定の時間を超える時間外労働について割増賃金の率を引き上げるとともに、年次有給休暇について一定の範囲で時間単位として取得できることとするなど必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。」としています。

※「ワーク・ライフ・バランス」

ワーク・ライフ・バランスという言葉は、最近使われるようになってきましたが、法律上の明確な定義があるわけでもなく、人々の理解もさまざまです。

仕事と子育てとの両立と考える人も少なくないが、報告書では、「『ワーク・ライフ・バランス』とは、老若男女誰でもが、仕事、家庭生活、地域生活、個人の自己啓発などさまざまな活動について、自ら希望するバランスで展開できる状態」と定義しています。


Q2 改正労働基準法は残業の割増賃金率が変更になると聞きました。変更内容を含め改正労働基準法の概要と実務上の留意点についてそのポイントを教えてください。」

A2 改正労働基準法の概要と実務上の留意点は次のようになります。

1、時間外労働の割増賃金率の引き上げ

(1)1ヶ月に60時間を超える時間外労働を行う場合……50%以上

 @1ヶ月に60時間を超える時間外労働については、法定割増賃金率が、現行の25%から50%に引き上げられます。

 Aただし、中小企業については、当分の間、法定割増賃金率の引き上げは猶予されます。

   中小企業の割増賃金率については、施行から3年経過後に改めて検討することとされています。

(2)割増賃金の支払いに代えた有給休暇の仕組みが導入されます

 @事業場で労使協定を締結すれば、1ヶ月に60時間を超える時間外労働を行った労働者に対して、改正法による引き上げ分(25%から50%に引き上げた差の25%分)の割増賃金の支払いに代えて、有給の休暇を付与することができます。

   この有給休暇は、長時間の時間外労働を行ったときから一定の近接した期間内に、半日単位などまとまった単位で付与することが考えられますが、詳細は改正法の施行までに、労政政策審議会で議論の上、厚生労働省令で定められます。

 A労働者がこの有給休暇を取得した場合でも、現行の割増賃金の支払いは必要です。

   労働者が実際に有給休暇を取得しなかった場合には、50%の割増賃金の支払いが必要です。

2、割増賃金引き上げなどの努力義務が労使に課せられます

 

限度時間(1ヶ月45時間)を超える時間外労働を行う場合

「時間外労働の限度基準」(平成10年労働省告示第154号:限度基準告示)により、1ヶ月に45時間を超えて時間外労働を行なう場合には、あらかじめ労使で特別条項付きの時間外労働協定を締結する必要がありますが、新たに、

@特別条項付きの時間外労働協定(※1)では、月45時間を超える時間外労働に対する割増賃金率も定めること。

A@の率は法定割増賃金率(25%)を超える率とするように努めること。

B月45時間を超える時間外労働をできる限り短くするように努めることが必要となります。

※1「特別条項付き時間外労働協定」とは  臨時的に時間外労働の限度時間(1ヶ月45時間)を超えて時間外労働を行なう場合に締結しなければならないもので、あらかじめ、限度時間以内の時間の一定期間についての延長時間を定め、かつ、限度時間を超えて労働時間を延長しなければならない特別の事情が生じたときに限り、一定期間についての延長時間を定めた当該一定期間ごとに、労使当事者間において定める手続きを経て、限度時間を超える一定の時間まで労働時間を延長することができる旨を定める協定です。ただし、限度時間を超える回数は1年の半分であることが必要です。

3、年次有給休暇を時間単位で取得できる

(1)現行では、年次有給休暇は日(暦日)単位で取得することとされていますが、事業場で労使協定を締結すれば、1年に5日を限度として時間単位で取得できるようになります。

 ○所定労働日数が少ないパートタイム労働者の方なども、事業場で労使協定を締結すれば、時間単位で取得できるようになります。

 ○1日分の年次有給休暇が何時間分の年次有給休暇にあたるかは、労働者の所定労働時間をもとに決めることになりますが、詳細は改正法の施行までに、労働政策審議会で議論の上、厚生労働省令で定められます。

(2)年次有給休暇を日単位で取得するか、時間単位で取得するかは、労働者が自由に選択することができます。

 ○例えば、労働者が日単位で取得することを希望した場合に、使用者が時間単位に変更することはできません。