労務Q&A

平成21年6月号

 

株式会社コンサルティング・オフィス
中小企業診断士 神田幸男
   

  今月の「労務何でもQ&A」では、従業員に係る諸問題、「欠勤の多い社員の退職金を減額することは可能か」と「営業成績が1年以上不良の従業員を解雇できるか」という問題の回答・解説を行います。


Q1 「当社の従業員Aは、自己都合退職することになりました。Aは、欠勤が多く、毎月の給与及び賞与は、欠勤日数に応じて減額支給していました。Aの退職金について、通常の退職金額よりも減額したいのですが可能でしょうか。なお退職金規定には、欠勤日数に係る減額の規定はありません。回答を宜しくお願いします。」

A1 退職金制度を設けることを義務づける法令はありませんから、退職金制度を設けなくても、法律上、問題となるものではありません。ただし、就業規則や労働協約などによって、退職金の支給条件などが明確に定められている場合には、退職金の支給条件などが明確に定められている場合には、退職金は労働基準法上の賃金に該当することになります。
 お尋ねによりますと、御社では、退職金規定に従い退職金の支給をしているということですので、御社の退職金も同法上の賃金に該当することになります。
 退職金制度の就業規則への記載については、同法第89条第1項第3号の2により、「退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払いの方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項」を記載しなければならないとされています。
 そして、退職金の不支給または減額事由を設ける場合、これは、前記の「退職手当の決定、計算及び支払の方法」に関する事項に該当しますので、就業規則に記載しなければなりません。
 したがって、退職金規定の支給条件を満たす者に退職金を支給しなかったり、減額規定がないにもかかわらず、退職金を減額支給することは、同法第24条違反となります。
 判例でも、懲戒解雇した労働者への退職金を不支給としたケースで、懲戒解雇における退職金の不支給規定がなく、さらに、そのような場合には退職金を支給しないという事実たる慣習が成立していなかったとして、退職金の支払が命じられています(東北ツアーズ協同組合事件 平成11年2月23日 東京地判)。
 同事件で、東京地裁は「退職金の支給については労基法15条1項、89条1項、同法施行規則5条1項が、退職金の定めをするときは、それに関する事項を労働契約の締結の際に明示し、所定の手続きによって就業規則に規定としておかなければならないとしているので、被告による退職金の支給について支払条件として懲戒解雇された従業員には退職金を支給しないという内容の付款を設けるのであれば、そのような内容の付款をあらかじめ就業規則において定めておくべきである」と判示しました。
 このように、退職金規定に不支給・減額条項を定めることは可能ですが、不支給・減額条項があるからといって、必ずしも退職金の不支給・減額が認められるわけではありません。
 判例では、「本件退職金規定9条、10条みは、懲戒解雇された者には退職金を支給しない旨の規定がある。しかしながら、退職金は、功労報償的性格とともに、賃金の後払い的性格をも合わせ持つものであることからすると、退職金の全額を失わせるような懲戒解雇事由とは、労働者の過去の労働に対する評価を全て抹消させてしまうほどの著しい不信行為があった場合でなければならないと解するのが相当である」とされているからです(トヨタ工業事件 平成6年6月28日 東京池判)。
 なお、退職金の減額については、一部は退職金が支給されることから、全額不支給の場合ほどの背信性は求められませんが、その行為の程度と減額の程度から、その合理性が判断されることになります。
 いずれにせよ、御社の退職金規定には、減額規定がないということですから、退職金を減額して支払うことは許されません。
 なお、退職金の計算方法は、原則として、労使間で自由に決定することができますから、例えば、退職金規定において、在籍中の出勤率などによって、退職金額の支給率などに差を設けることは、原則として問題ありません。


Q2 「当社では、営業社員については、月間の売上成績が一定金額に達しない月が1年間以上続いた場合には、解雇する旨を就業規則に定めています。このたび、営業社員のBがこの条項に該当することになりました。当社としては、従業員Bを成績不良を理由に解雇したいのですが、問題はないでしょうか、回答をお願いします。」

A2 お尋ねのケースのように、勤務成績不良を理由に解雇する場合、労働者には、労働契約上の債務不履行はあっても、企業秩序違反はないのが一般的ですから、普通解雇に該当すると考えられます。
 勤務成績不良を理由として解雇する場合、@就業規則、労働協約などの解雇事由に該当しているか、A会社は、勤務成績不良の者を教育し、矯正する努力をしているか、Bその者より勤務成績の悪い者を不問にしていないか―などが問題となります。
 @について、判例では、勤務成績不良を理由とする解雇の合理性の判断にあたり、就業規則、労働協約などに解雇に関する規定があり、当該規定において勤務成績の不良が解雇事由になっていることを求める傾向があります。
 Aについては、会社には、勤務成績が悪い者に対し、教育の実施など矯正するための努力を行なう義務があり、このような措置を実施していない場合には、解雇は無効とされます。
 判例では、(a)解雇に至るまでの間に解雇事由とされる数々の行為に対して1度も処分していない。(b)その者を叱責し、あるいは教育すべく具体的にどのような手段を講じたか不明確である――などとして、勤務態度不良を理由とする普通解雇を無効としたものがあります(コスモ油化事件 平成3年3月26日 大阪地判)。
 Bについては、解雇する者よりも勤務成績が悪い者や同程度の勤務成績の者を不問にしている場合は、その者を解雇することに合理性が認められず、解雇は無効とされます。
 勤務成績不良を理由とする解雇については、以上のような点に注意する必要がありますが、解雇の合理性は、あくまで個別の事案によって判断されることになります。
 例えば御社が、一般常識に照らし著しく高い営業成績を社員に求め、そのため、それほど能力が低くないにもかかわらず、成績不良となっている場合や、たまたまある一定期間の成績が悪くても、過去に実績を残しているような場合には、解雇が無効となる可能性が高いでしょう。
 判例では、入社から解雇までの1年2ヶ月間に新規契約を2件しかとれず、そのうち7ヶ月間は営業成績が営業部員中最低だった者について、解雇1ヶ月前からは営業成績が向上しており、解雇に値するほどの営業成績の低さということはできないとしたものがあります(ジャパン・エクスポート・プロモーション事件 昭和61年7月16日 東京地判)。
 一方、解雇に至るまでの1年11ヶ月の間全く売上がなく、しかも、その間、無断欠勤や外出先の報告をせず外出してそのまま帰宅してしまう、注意する上司に反抗的な態度をとり続けるなど、勤務態度も不良で改善意欲もみられなかったことなどから(他部署への配置転換命令も拒否)、普通解雇を有効としたものがあります(住友不動産ホーム事件 平成9年5月19日 東京地判)。
 このように、単に能力が低い、成績が悪いという理由だけで解雇はできず、会社がその者の能力向上を図る努力をすることが求められるわけです。