労務Q&A

平成21年10月号

労災の摘要について
株式会社コンサルティング・オフィス
中小企業診断士 神田幸男
   

  今月の「労務何でもQ&A」では、「マイカーによる出勤途中での交通事故」「マイカーによる帰宅途中での交通事故」「子供を保育園へ送迎する際の交通事故」が通勤災害となり労働災害補償保険(労災)の適用が受けられるかなどの相談に焦点を当てて回答、解説を行いました。


Q1 会社が禁止しているマイカーで出勤した者が、交通事故に遭い負傷した場合、会社が禁止していることから、通勤災害とは認められないのでしょうか。

A1 従業員が会社に申請していた通勤方法以外の方法で出勤したり、会社が禁止しているにもかかわらず、マイカー通勤を行い、その途中に被災する場合があります。このようなケースについては、「合理的な経路及び方法」だったか否かが問題となります。
 この場合の「合理的な方法」かどうかですが、これは、「鉄道、バスなどの公共交通機関を利用する場合」、「自動車、自転車など本来の用法に従って使用する場合」、「徒歩の場合」など通常用いられる交通方法であれば、労働者が常に用いているか否かを問わず、一般に合理的な方法に該当するとされています。
また、「合理的な経路」とは、「乗車定期券に表示され、あるいは、会社に届け出ているような、鉄道、バス等の通常利用する経路及び通常これに代替することが考えられる経路等が合理的な経路となる」とされています。

 つまり、会社に届けている経路か否かに関係なく、自宅と就業の場所との間の合理的な経路と認められれば、通勤行為として認められることになります。
 さらに、通常利用することが考えられる経路が2、3あるような場合には、その経路はいずれも合理的な経路になるとされています。
 したがって、合理的な経路とは、労働者が通常利用している経路のみではなく、いくつもの経路が考えられる場合には、それらすべてが含まれます。
 例えば、通常は、在来線を利用している者が、新幹線を利用したとしても、その通勤経路が遠回りになるなどの場合を除き、新幹線を利用する経路や新幹線を利用して通勤することも、合理的な経路及び方法と認められることになります。
 また、マイカー通勤の場合でも、その経路が著しく遠回りになるものを除いていくつも考えられる場合には、そのすべてが合理的な経路となりますし、通常は大通りを通って通勤している場合であっても、工事などで迂回せざるを得なくなった場合も合理的な経路として認められることになります。
 なお、客観的にみて通常は通勤に利用しないもの、例えばローラーブレードで通勤したり、免許を一度も取得したことがない者が自動車を運転して通勤した場合には合理的な方法とは認められないことになります。
 合理的な経路及び方法が争点となった過去の事例をみてみますと、私鉄バスのストライキのため、通勤経路と逆方向にある駅に向かう途中の災害、公共交通機関のストライキ中の自転車による出勤途中の災害等は、合理的な経路及び方法として、通勤災害と認められています。
 一方、合理的な経路及び方法と認められなかったものとしては、帰宅後に線路内を歩いて負傷した場合、高速道路上で下車し金網を乗り越える際の災害等があります。
 したがって、今回のケースの場合も、合理的な経路を通っている限り、会社が禁止しているマイカー通勤であっても、通勤災害になります


Q2  マイカーで通勤している社員が、帰宅時に交差点で衝突事故を起こし重傷を負ってしまいました。警察の調べによれば、事故原因は、その社員の居眠り運転による信号無視と判明しました。こうしたケースでも通勤災害と認められるのでしょうか。

A2 労働者の被った通勤途上の災害が、通勤災害として認められるためには、当該通勤が、「就業に関し、住居と就業の場所との間を、合理的な経路及び方法により往復する」ものであることが必要とされています。そして、その往復行為が業務の性質を有する場合は「通勤行為」に当たらず(この場合は、業務災害として考えられます)、また、往復行為の途中において逸脱・中断があったときには、その後の災害は一定の場合を除いて、通勤災害とは認められないこととされています。
 今回のケースを整理しますと、被災者は、就業後、通常と同様にマイカーで通勤し、その帰路に交通事故で負傷したものです。したがって、通勤災害と認められることは、ほぼ間違いないと考えられます。
 ただし、ここで1つひっかかる点は、事故の原因が被災者の居眠り運転による信号無視だったということです。こうした本人の過失による災害(業務災害及び通勤災害)については、労災保健法では支給制限の規定を設けています。
 支給制限が行われるのは、次の@〜Bに該当する場合です。
@労働者が故意に負傷、疾病、障害もしくは死亡またはその直接の原因となった事故を生じさせたとき。
A労働者が故意の犯罪行為もしくは重大な過失により負傷、疾病、障害もしくは死亡もしくはこれらの原因となった事故を生じさせたとき。
B正当な理由がなくて療養に関する指示に従わないことにより負傷、疾病もしくは障害の程度を増進させ、もしくはその回復を妨げたとき。
 @は、労働者が結果の発生を意図した故意によって事故を発生させた場合で、一切の保険給付は行われません。言い換えれば、こうしたケースについては、業務上災害あるいは通勤災害とは認めないということです。具体例としては、労働者の自殺がこれに該当します。
 Aの「故意の犯罪行為」とは、事故の発生を意図した故意はないが、その原因となる犯罪行為が故意によるものをいうとされ、また「重大な過失」とは、事故発生の直接の原因となった行為が労働基準法や鉱山保安法、道路交通法などの法令上の危害防止に関する規定で、罰則の付されているものに違反すると認められる場合について適用がなされます。
 この場合、保険給付の都度所定給付額の30%の割合で支給が制限され、休業補償給付または休業給付、障害補償給付または障害給付(再発にかかるものは除かれます)がこの対象となります。支給制限の期間は、休業補償給付または休業給付については支給事由の存する期間で、障害保障給付または障害給付については当該障害の原因となった傷害について療養を開始した日の翌日から起算して、3年以内の期間において支給事由の存する期間となっています。
 Bの規定は、労働者に適正な診療を受けさせることを目的とするものですから、あくまで労働者の療養指導が第一とされています。
 そこで今回のケースですが、事故の原因が被災者の居眠り運転による信号無視ということですので、前記Aに該当するものといえます。
 したがって、通勤災害に認定されることになると思われますが、休業給付及び障害給付については、30%減額支給されることになります

 

Q3  出勤時に子供を保育園に送る途中に負傷した場合や退勤時に保育園へ子供を迎えに行く途中に負傷した場合は、通勤災害と認められないのでしょうか。

 この場合、保育園が「通常の通勤経路上にある場合」、「通常の通勤経路とは異なる場所にある場合」の2つのケースが考えられます。この2つのケースのどちらについても、原則として通勤災害と認められます。
 こうした子供を保育園に送る行為について通達では、「他に子供を監護する者がいない共稼ぎ労働者が、託児所、親戚宅などに子供をあずけるためにとる経路などは、そのような立場にある労働者であれば、当然、就業のためにとらざるを得ない経路であるので、合理的な経路となるものと認められる」としているからです。
 また、同様のケースで通勤災害として認められた過去の事例をみてみますと、子供を保育園にあずけている労働者が、保育園の開始時間に子供を送っていくと会社に遅れるため、保育園近くの実家に子供を送り届けた後の出勤途上の災害について、「共稼ぎの職員が子供を託児所へ連れて行く経路は、労働を提供する上で止むを得ないものとして、合理的経路とされている。したがって、この事案のように、被災職員の勤務開始時間の関係から実家へ子供を連れて行くことは止むを得ない事情と認められ、迂回する経路全体を合理的経路上とし、通勤災害に該当する」とされたものがあります。
 したがって、共働きの家庭などで出勤時に子供を送っていかなければならないと認められる状況がある場合には、原則として、自宅を出て保育園に寄って会社に向かうまでの経路すべてが合理的な経路となり、その間の災害は、通勤災害と認められることになります。
 しかし、例えば、子供を自宅近くの保育園に入れることができるにもかかわらず、自宅とは離れた場所にある私立の幼稚園に入園させたとか、本来就業のために自宅を出る時間と子供を保育園に送っていく時間がかけ離れているなどの場合には、通勤行為とみなされる可能性は低いでしょう。
 なぜなら、こうした場合には、就業に関した行為の一部ではなく、どちらかというと、子供を保育園に送っていくことが目的になっていると考えられるからです。