労務Q&A

平成21年11月号

労災の摘要について(2)

 

株式会社コンサルティング・オフィス
中小企業診断士 神田幸男

 

今月の「労務何でもQ&A」は、先月号に引き続き、通勤災害の相談に焦点を当てて回答、解説を行います。

 

   

Q4
単身赴任者が金曜日の夜に家族の住む自宅に帰り、月曜日の朝にその自宅から会社に向かう途中に負傷した場合は、通勤災害になるのでしょうか。
A4 

  単身従業員などが週末に家族の住む自宅に帰り、週明けに単身赴任先に戻る行為を行っているケースがあります。
  こうしたケースを一般には、「土帰月来」行為といいます。
  この「土帰月来」行為に関しては、通達で「就業の場所と家族の住む家屋との間を往復する場合において、当該往復行為に反復・継続性が認められるときは、当該自宅を労災保険法第7条第2項に規定する住居として取り扱うものとする」とされています。
  この通達の取り扱いの対象者は、転勤などの止むを得ない事情のため同居していた配偶者と別居して単身で生活する者のほか、単身赴任者と同様に、家庭生活の維持という観点から自宅を本人の生活の本拠地とみなし得る合理的な理由のある独身者も含まれます。
 したがって、このケースの場合、単身赴任先から金曜日の就業後に家族の住む自宅へ帰り、翌週の月曜日にその自宅から直接会社に向かっていることから、月1回以上、このような往復をしている場合には、通勤災害と認められると考えられます。
 では、単身赴任先のアパートから家族の住む自宅に帰る途中の災害は、通勤災害とは認められないのでしょうか。
 前述してきたように、通勤災害とは、「住居」と「就業の場所」との間の往復行為をいいますから、単身赴任先のアパートから家族の住む自宅に帰る場合は、この要件に該当せず、原則として、通勤災害とは認められません。
 しかし、判例では、単身赴任先の住居が就業の場所と同視し得る状況である場合には、単身赴任先の寮を就業の場所と認め、この間の災害についても通勤災害と認めたものもあります。
 具体的には、「寮は業務の必要に基づいて設けられた」「工事現場と一体となって業務を遂行するための付帯施設である」「住居選択の自由がなく、地元採用者を除く全員が寮における集団的な単身赴任生活を余儀なくされている」「家族を同伴する自由もなかった」などから、このような立場に」ある労働者が、真に自由な生活を営み得るのはそれぞれの自宅であり、労働者の帰省の必要性には、他の一般の単身赴任者とは異なった重い意味があり、自宅から寮に向かう行為は、「就業の場所」に向かうのと質的に異なるところがないと判断されました。
 厚生労働省でも、これと同様のケースと認められる場合には、単身赴任先の住居を「就業の場所」とみなし、通勤災害として認めることとしています。
 したがって、このようなケースでも、上記のような特殊な事情がある場合には、通勤災害と認められることになります。


Q5
通勤時に、電車内での携帯電話の使用を注意した場合や禁煙となっている駅のホームでの喫煙を注意したために、暴行を受けた場合でも通勤災害と認められるのでしょうか。

A5

 通勤途上の事故などによる負傷、死亡などが通勤災害とされるためには、通勤行為と当該負傷などとの間に相当因果関係があることが必要となります。
 相当因果関係があるか否かは、通勤起因性が認められるかどうかで決まります。
 これについては、通勤に通常伴う危険が実現化したことによって当該負傷などが生じたのか否かによって判断されます。
 したがって、通勤とは全く関係のない、偶然の出来事による災害は、一般には通勤災害とは認められません。
  「通勤に通常伴う危険が現実化したもの」とは、例えば、駅の階段から足を踏み外して転落したとか、交通事故に遭うなど通勤途中に遭うと考えられる一般的な危険ばかりではなく、ビルの建設現場から落下してきた物体により負傷した場合や、転倒したタンクローリーから流れ出す有害物質により急性中毒にかかった場合なども、通勤経路に危険が内在されていたとみなされ、「通勤に通常伴う危険が具体化した」とされることになります。
 しかし、通勤途中に自殺した場合や電車内で足を踏まれたことによって喧嘩となり負傷した場合など被災者の故意または過失によって生じた災害などは通勤災害には該当しません。
 では、退勤時に電車内での携帯電話の使用や禁煙場所での喫煙を注意して負傷するとか、酔っ払いに絡まれて負傷した場合など第三者の故意または過失により負傷した場合はどうなのでしょうか。
 第三者の暴行による被災については、「被災場所周辺の状況」「加害者と被災者との間の私的な怨恨関係の有無」「被災者の災害を誘発する言動の有無」などの点から判断されることになります。
 過去の事例では、出勤途中に犬を轢きそうになった被災者が、犬の飼い主に暴行されたケースで、「自動車で通勤する労働者が、通勤途上で犬を轢きそうになることは通常発生し得る出来事であり、またこのような出来事に遭遇した場合において、犬の飼い主が反射的に当該労働者に対して暴行に及ぶこともありえることです。このような場合、他に暴行を引き起こす通勤と関係のない事由が認められない限り、通勤と暴行との間に相当因果関係が認められる」としています。
 では、今回のケースのように電車内で携帯電話の使用や禁煙場所での喫煙を注意したことによって暴行を受けた場合ですが、この場合には、一般に電車内で禁止されている携帯電話の使用などを注意する行為は、社会通念上通勤に伴う行為とは認められず、その行為は、あくまでもその人個人の私的行為、善意行為であると考えられます。
 したがって、携帯電話の使用を注意して暴行を受けた場合などには、原則として、通勤とは関係のない私的行為とされ、通勤災害とは認められない可能性が高いといえます。
 一方、酔っ払いに絡まれて負傷した場合ですが、この場合には、単に絡まれたために負傷した場合には、通勤災害になる可能性がありますが、例えば、絡まれたことをきっかけに喧嘩を仕掛けたとか、故意に負傷を生じさせるような言動を行った場合には、通勤災害とはなりません。

 

Q6
業務終了後、会社内で行われた退職する同僚の送別会に出席し、その後帰宅途中に交通事故に遭い負傷した場合は、通勤災害になるのでしょうか。

A6

 このケースのように、業務終了後に会社内や会社近くの飲食店で、退職者や転勤する者の送別会が行われることは一般にみられる行為といえます。
 こうした送別会に参加した後、帰宅時に負傷した場合に通勤災害になるかどうかですが、業務命令によって、参加が強制されていた場合には、その後の帰宅途中の災害は通勤災害と認められます。
 一方、参加が強制されていなかった場合には、その後の帰宅途中行為中の災害は、原則として通勤災害とは認められません。
 しかし、その送別会へ参加していた時間が比較的短時間の場合には、就業と帰宅との関連性が失われていないとして、通勤災害を認められる場合もあります。
 こうしたケースについて、過去の事例をみますと、業務終了後事業場施設内で労働組合の用務を行った後に帰宅する途中の災害について、組合用務に要した時間(1時間25分程度)の時間は、就業と帰宅との直接的関連を失わせると認めるほど長時間ではないとして通勤災害と認められたものがあります。
 同様に組合用務に要した時間が2時間5分だったケースでは、一般的には、帰宅と就業の場所との関連性が失われたといえるが、その時間がわずかであること及び当日、施設内に残って緊急の組合用務を行なうことについて事業主の許可を受けていたことから、その間の災害が通勤災害と認められています。
 また、今回のケースのように、事業場施設内で慰安会を行った後に帰宅する途中の災害の事例では、構内食堂で行われ、1時間ほどで終了していることから、その後の帰宅途中の災害については、就業と帰宅との直接的関連を失わせると認められるほど長時間でないとして通勤災害と認められています。
 さらに、会社内で行われた送迎会に出席し、業務終了から2時間16分後に退社したケースでは、送迎会に出席した時間が1時間30分程度であること、その後、ロッカールームで着替えをした後に帰宅していることから、就業と帰宅との関連性は失われていないとして通勤災害と認められています。
 一方、3時間程度送迎会に出席した後に帰宅したケースについては、就業と帰宅との関連性が失われているとして、その間に被った災害は、通勤災害には当たらないとされています。
 したがって、業務終了後に会社内で行われた送迎会に出席し、その後帰宅する際の災害については、その送迎会の出席が強制されていない場合であっても、2時間未満程度の時間であれば、通勤災害と認められると考えられます。