労務Q&A

平成21年12月号

ワークシェアリング
株式会社コンサルティング・オフィス
中小企業診断士 神田幸男
   

  今月の「労務何でもQ&A」も、先月号に引き続き、通勤災害の相談に焦点を当てて回答、解説を行います。


Q7 会社帰りに、夕食の食材を通勤経路から外れた場所にあるスーパーで買物をした後に交通事故に遭い負傷した場合は、通勤災害になるのでしょうか。

A7 労働者が出勤するときに、体調が悪く病院に立寄ってから出勤したり、今回のケースのように帰宅時に夕食の材料を購入するため、自宅近くや駅近くのスーパーなどで買物をしてから帰宅するということもあるでしょう。また、退職時に映画館に寄るとか、友人と居酒屋で飲食する場合もあります。
こうした場合であっても、通勤災害になるのでしょうか。
労災保険法では、通勤途中に通勤とは関係のない目的で通常の経路を離れたり、通勤とは直接関係のない行為を行っている間は「逸脱・中断」となり、逸脱・中断中はもちろん、その後、元の経路に戻った後についても、原則として通勤には当たらないとされています。
したがって、逸脱・中断があった場合には、原則として、通勤行為は当該逸脱・中断の直前で終了する事になります。
ただし、これには例外があります。
通勤途中で日用品の購入その他日常生活上必要な行為をやむを得ない事由により最小限度の範囲で行なう場合には、逸脱・中断の間を除いて、合理的な経路に戻った後は通勤と認めることとされているからです。
「日用品の購入その他日常生活上必要な行為」には、具体的には、帰宅途中に惣菜を購入する場合、クリーニング店に立寄る場合、選挙の投票を行なう場合、病院、診療所で治療を受ける場合などがあります。
 今回のケースについても、退職時に夕食の材料を購入するためスーパーに寄ったということですから、日常生活上必要な行為に該当し、通常の通勤経路に戻った後の災害であれば、通勤災害となるでしょう。
 過去の事例では、帰宅時に自宅とは反対方向にある義姉宅に惣菜を買いにいき、再び通勤経路に戻った後の災害についても、通常の通勤経路からの距離が比較的近く、時間的にも短時間であることから、通勤災害と認められたものがあります。
 また、帰宅時に近くの飲食店で夕食をとる場合では、単身者が帰宅中に食堂に立ち寄り、食事をしながらビールを1本飲み、その後の帰宅途中に遭った災害では、食事の際の飲酒についても、その量は、日常生活上の必要な行為の範囲を超えるものではなく、単身者が通勤途上に食事をとることは一般的にあり得るとして通勤災害とされています。
 なお、経路の近くにある公園で短時間休憩するとか、経路上の店でジュースや雑誌などを購入する場合等は労働者が通常通勤の途中に行なう些細な行為であり、逸脱・中断とはみなされないため、その行為の間も通勤途中とされています。


Q8 会社の所定休日である日曜日に、突然会社から呼び出され、タクシーで会社に向かう途中で交通事故に遭いました。この災害は通勤災害でしょうか。それとも業務上災害でしょうか

A8 今回のケースにつきましては、「休日に、鉄道の保線工夫が事故の担当する鉄道沿線に突発事故があったため、自宅等から使用者の呼び出しを受けて現場に駆け付ける途上は、業務遂行中と解すべきか」との照合に対して、「使用者の呼び出しがある場合はもちろん、予め出勤を命ぜられている場合には、休日であっても、自宅から現場までの途上は業務遂行中と解する」と回答された行政解釈が示されていますので、今回の災害は業務上災害と認定されることになりましょう。
 つまり、突発事故などのように緊急用務のため、休日あるいは年次有給休暇の日に出勤する途上は、
1)事業主の業務命令があればもちろん、明示の業務命令はなかったとしても、緊急事態が発生したことが分かったら直ちに出勤すべきことが労働者としての職務上当然予想されている場合であって
2)通常の通勤時間、通勤順路、通勤方法などと著しく異なった時間、順路、方法等による場合
には業務遂行性があると判断されることになっています。
 今回のケース、上司から呼び出しを受けているということですので、事業主による明示の業務命令があったものとみることができます。
 また、一方的な呼び出しを受けたということであれば、その呼び出された時間について通常の勤務と異なり緊急性があることは問うまでもありません。また、タクシーによる出勤ということで、順路や方法が通常と考えられるものと著しく異なっていたかどうかが必ずしも明らかではありませんが、緊急の用務のため急いで出勤する必要があることを認められる場合には、経路や方法は必ずしも通常の勤務と著しく異なっていることを要しないものと思われます。
 通常は電車やバスで通勤していて、急な呼び出しを受けたという仕事の緊急の必要上、タクシーを使用して出勤したものであれば、業務遂行性が認められる可能性は一層大きいものと思われます。
 また、解釈例規にも示されていますように、これは休日もしくは休暇の日に突然出勤の必要性が生じたときに限られ、事前に出勤が義務づけられているような休日労働の場合は、出勤行為について通常の所定労働日と同様にみるべきで、業務遂行性を帯びた行為としてとらえることはできません。

 

Q9 先日、当社の営業部長が約3週間の予定で海外出張しました。出発日は休日だったのですが、営業部の者が数名、空港へ見送りに行きました。見送りに行った者の1人が、空港からの帰路に交通事故で負傷しました。この災害は、労災扱いになるのでしょうか

A9 労働者が被った災害が業務上災害と認められるには、「業務遂行性」及び「業務起因性」が認められなければなりません。
 簡単にいえば、「業務遂行性」とは、労働者が労働契約に基づいて事業主の指揮命令に従い仕事をするというように事業主の支配下にある状態をいい、また、「業務起因性」とは、支配下にあることに伴う危険が具現化したと経験則上認められることをいいます。
 そこで、労働者の被った災害の業務上外を判断する場合、まず、業務遂行性の有無を見る事になります。今回のケースは、休日に上司を見送りに行ったということですが、慣行により部下が上司を見送ったということで、当日が休日出勤扱いとされていたようでもなく、また今回の見送りについて業務命令が出されていたわけでもないと思われます。
 業務遂行性を判断する場合、災害が会社の所定休日に発生したようなときの判断基準は、休日出勤扱いされていたか否かという社内的な処理をもってのみ判断すべきものではありませんが、今回のケースは、被災者の行為を「業務」とみるにはかなり無理があるといわざるを得ません。
 業務命令があったか否かという点についていえば、今回のケースでは、部下が上司の出張を見送るのが慣行化されていたということで、いわゆる「黙示の命令」があったと考えられないかということがあります。
 しかし、見送りそのものは通常の業務とは個別の行為ですし、被災者が見送りに行かなければならない必然性と会社の慣行を結び付ける客観的要因もよく分からず、慣行に則って見送りに行ったということをもって、見送りを「業務」とみることはできないでしょう。したがって、今回のケースが業務上災害と認められる可能性は、まずないと考えてよいでしょう。
 ただし、特別なケースとして、社長や重役などの秘書が、社長や重役の出張に伴って見送りに行くような場合、出張の計画から乗り物のチケットや宿泊先の手配など一切の面倒を秘書が担当していれば、見送りに行くことも本人の本来の仕事の一環とみられ、見送りの帰路に交通事故により被災したとすれば、業務上の災害と認められる可能性は強いといえます。