労務Q&A

平成21年5月号

ワークシェアリング
株式会社コンサルティング・オフィス
中小企業診断士 神田幸男
   

  今月の「労務何でもQ&A」は、新聞によく出てくる言葉、「ワークシェアリング」、「有効求人倍率」、「昇給・ベア」などに関する質問が数多く寄せられましたので、これらに焦点を当てて回答・解説をいたします。


Q1 「最近、新聞紙上でよく見かける言葉に『ワークシェアリング』というのがあります。先日の記事には、この厳しい経済環境下で日本経営者団体連盟(日経連)と日本労働組合総連合会(連合)の労使双方が導入について議論した、という記事がありました。この『ワークシェアリング』とはどのようなものか解説をお願いします。」

A1 ワークシェアリングとは、従業員一人当たりの労働時間を減らし、その分で他の従業員の雇用を維持したり、雇用を増やしたりする試みのことです。「仕事の分かち合い」と訳されることが多いです。長引く不況で失業率が上昇した1970年代のヨーロッパで生まれた概念で、不況期になると、導入論で各国が持ち上がります。日本でも2002年(平成14年)に政府、日本経営者団体連盟(日経連)、日本労働組合総連合会(連合)がワークシェアリングについての基本的な考え方と、実施のための環境整備の具体化について合意し、また、サブプライムローン問題に端を発した世界同時不況時の2009年1月には、日本経済団体連合会と連合の労使双方が導入について議論を行ないました。
ワークシェアリングには以下の3つがあります。 @多様就業型  勤務形態を多様化することで多くの雇用機会を創り出し、社会全体の雇用の場を増やすタイプ。現在の労働者と潜在的な労働者との間で有給の雇用労働を分かち合うタイプのことです。 A雇用創出型  一人当たりの労働時間を短縮することで雇用を創出し、より多くの労働者に雇用機会を与えるタイプ。労働者と失業者、高齢者と若年層との間で有給の雇用労働を分かち合うタイプのことです。 B雇用維持型  企業の雇用維持を目的に一人当たりの労働時間を短縮し、従業員間で仕事を分かち合うタイプ。全従業員を対象とする緊急対応型と、中高年の従業員に限定した中高年対策型があります。  政府・与党は雇用対策として、従業員の労働時間短縮で新たに失業者を雇う形態の「ワークシェアリング」(仕事の分かち合い)を実施する企業に財政支援する方針を固めました。この形態は労使双方の慎重意見で導入が進んでいませんが、政府は失業者救済に有効な手段と判断し、財政支援で導入を促すことにしました。  具体的には、時短に伴う賃金の引き下げ分を助成します。これにより、企業は新規雇用を行ないながら、実質的に人件費抑制につなげることが可能となります。助成金は、解雇防止のために従業員を休業・出向させた企業に休業手当などを助成する「雇用調整助成金」の適用範囲を拡大して確保する案が有力です。


Q2 「先日の新聞記事に、厚生労働省が30日に発表した3月の有効求人倍率(季節調整値)は0・55倍で、前月比0・04ポイント低下し、2002年9月(0・55倍)以来の低水準となった。また、正社員有効求人倍率は0・60倍となり、前年同月を0・03ポイント下回った。有効求人数(季節調整値)は前月比4・1%減、有効求職者は前月比2・2%減となった、という記事がありました。ここに出てくる『有効求人倍率』の解説をお願いします。」

A2 有効求人倍率は対象の月に受け付けた新規求人と前月から持ち越された求人を合わせた数(有効求人数)を新規求職者と前月から引き続き仕事を探している人の合計(有効求職者数)で割って求めます。労働市場の需給関係を示す指標です。一を上回っていれば仕事を探す人に有利な売り手市場で、一を下回っていれば雇う側が有利な買い手市場であることを表します。 景気動向指標の一致系列に採用されていることからも分かるように、景気との連動性は高いですが、公共職業安定所(ハローワーク)で取り扱う求人・求職のみが集計対象のため、労働市場全体の需給動向を反映しない場合もあります。  また、有効求人倍率は厚生労働省が発表しますが、同日に総務省が発表するものに完全失業率があります。ちなみに5月1日午前8時30分に総務省が発表する3月の完全失業率は4・6%となり、厳しい雇用情勢を背景に、2月の4・4%から一段と上昇する見込みです。  完全失業率とは、労働力人口に占める完全失業者の割合を示します。わが国では総務省の労働力調査で毎月発表されます。完全失業者とは、15歳以上で、仕事をもたず、すぐに就業が可能で、求職中のものを指します。これはILO(国際労働機関)の定めた国際基準に準拠しており、他の主要先進国でも、定義には若干の違いはあるものの、ほぼILOの定義に準拠して完全失業率を算出、公表しています。以下の算式で計算します。 完全失業率(%)=(完全失業者数÷労働力人口)×100

 

Q3 「賃金引き上げに関連して、よく『定昇』とか『ベア』という言葉が出てきますが、両者の区別がなかなかつきません。この違いを中心に解説をお願いします。」

 簡単に言えば、1年先輩の賃金に追い付くのが定昇(定期昇給)、全員の賃金を何らかの基準で一斉に底上げするのがベア(ベースアップ)です。 具体的な例を示します。  一番分かりやすい年齢給を例にとって説明します。次のような年齢給表があります。  30歳の人は、1年経つと31歳になり、2008年版の年齢給表によると年齢給が10,000円増え260,000円となります。このように、制度的に約束された昇給が定期昇給(定昇)です。  これに対して、物価上昇や生産性向上、または労働組合との交渉など、何らかの理由によって年齢給表そのものを2009年版に書き換えることがあります。そうすると、30歳だった人は、31歳の賃金が適用され263、000円となり、13,000円引き上げられます。このうち10,000円が定期昇給で、3,000円がベースアップになります。